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7's Library

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深夜の真剣文字書き60分一本勝負:震える心、凍てつく感情

小説(掌編)

 

深夜の真剣文字書き60分一本勝負で書いた掌編です。

使用お題:この冬最初の雪

ジャンル:オリジナル、暗い

 

■ 震える心、凍てつく感情  ■

 

この冬最初の雪が降り始めたとき、彼女はそのことに気付かなかった。

1LDKの自分の家に閉じ篭り、ドアには鍵をかけ、窓は灰色の分厚いカーテンできっちりと閉じ、自身はソファベッドの上で毛布と掛け布団を頭から被って泣いていたからだ。

彼女は毛布と掛け布団の中に自身の嗚咽を閉じ込めようと必死になっていた。そうすれば、この世界の誰にも自分が泣いていることを知られることはなく、この悲しみも苦しみも辛さもやり切れなさも何もかもが無かったことになるような、そんな考えを無意識に抱いていた。

 

真夜中になって彼女は目を覚ました。いつの間にか眠っていたらしい。彼女の頭の中は霞がかかったかのようにぼんやりとしていて、一瞬自分がどこにいるのかすらわからなくなっていた。ソファベッドから起き上がり、素足を床に付けると冷気が肌を刺したが、そのまま立ち上がる。

電気を点け、窓際に寄った。

カーテンの向こうから、冷たい空気が押し寄せてくるのを無視し、分厚い布地を開ける。

部屋の電気が映し出したベランダは、いつもと違う色味で、いつもと同じような景色だった。

震える指先で窓の鍵を開け、ガラス戸を横に引くと、先ほどまでとは比べようもない冷気が全身を覆う。見上げれば、ビルとビルの間に狭苦しそうに在る暗い夜空に銀色の星が瞬いていた。

彼女は笑った。声を上げて笑った。声は銀世界に、暗い夜空に、吸い込まれていくようだった。笑い声はやがて涙声に、嗚咽に変わり、苦しそうな咳が出て、止まった。

誰の声も、何に音も聞こえない。静寂が彼女を支配した。世界は死んでいるようだった。 彼女自身も息絶えようとしているように思えた。

 

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

寒さは彼女の全身を浸し、それ以外のすべてを凍らせたかのようだった。

やがて、彼女は息を吐き出した。

白い靄が、空気に溶ける。

彼女はガラス戸に手をかけた。

もう指先は震えていない。