Twitter300字ssで書いた掌編です。
テーマ:花
ジャンル:オリジナル、現代、暗い
■ 名も知らぬ花 ■
木に、花が咲いていた。
赤に近い、ピンクの花だ。
昨日、一昨日と続いた強い風雨のせいか、すでに3分の2以上の花びらが散っており、とても美しいとはいえない姿を晒している。可哀想というよりは、見窄らしい。
「行くわよ」
母の声に、私は応えなかった。代わりに、花を指差して訊ねていた。
「これ、何の花?」
「さぁ」
母は素っ気なく私の問いに答えると、後ろに立って車椅子を押した。私は首を傾げて花の方を見ようとしたけれど、すぐに建物の影に隠れて見えなくなってしまった。
「あの花、私みたいだね」
誰に聞かせるつもりもない小さな呟きは、病院の自動ドアが開く音に吸い込まれた。
きっと、あの花のように、私もここで散っていくのだろう。