7 Library

文章書いたり本作ったり短歌詠んだり感想呟いたり

深夜の真剣文字書き60分一本勝負:呪いの万華鏡

 

深夜の真剣文字書き60分一本勝負で書いた掌編です。

使用お題:全部(報われない 焦がれる 万華鏡 笑顔と幸福、それから たとえ光をうしなっても)

ジャンル:オリジナル、和風FT

 

■ 呪いの万華鏡 ■

 

あるところに呪いの万華鏡がありました。

その万華鏡を覗いたまま口に出した願いは必ず叶うといわれています。

ただし、願いを叶えた者は万華鏡の中に永遠に閉じ込められてしまうとか……。

 

呪いの万華鏡の噂を聞きつけて、一人の娘がやってきました。

娘は万華鏡を覗き、願いを口にしました。

「家族みんなが笑顔で、幸福で暮らせますように。それから……」

言葉と同時に娘の姿は万華鏡の中に吸い込まれるようにして消えました。

 

 

「欲がない娘だねぇ」

万華鏡の中に吸い込まれた娘の前に、色鮮やかな着物を身に着け、美しく化粧した女が現れました。

「家族のために自分を犠牲にするなんて、報われないこった」

娘は何も答えません。

「この万華鏡の中に閉じ込められたら、もう一生ここからは出られないよ。いくら外の世界に焦がれても無駄さ」

「外の世界に未練はありません」

娘が口を開きました。その顔が女の方へ向けられましたが、その目は閉じられたままです。

「あんた、盲目かい……」

娘は頷きました。

「私のこの目じゃ、家族の役に立てないからいいんです」

娘は口元だけで女に微笑みかけました。

その微笑の何と美しいことでしょう。

女は娘をじっと見つめていましたが、やがて何かを諦めたように言いました。

「外の世界にお帰りよ。あんたがいないとあんたの家族に笑顔や幸福は訪れないようだよ」

娘はそれでも微笑み続けます。

「はい、優しい家族です。こんな私をこの歳になるまで育ててくれました。だから……」

「家族の記憶からあんたの存在を消すっていう、最後の願いは帳消しさ」

娘の口元から、初めて微笑が消えました。

「そんな、どうして……」

娘はその言葉を最後に万華鏡の中から消え去りました。

 

一人残された女の、からからから、という笑い声だけが、万華鏡の中にいついつまでも響き渡りました。

 

※ 同世界観作品 ※