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珈琲がテーマのネプリ歌集『珈琲日和6』を読みました(2)

珈琲がテーマのネプリ歌集『珈琲日和6』を読みました(1)

上記記事の続きです。最後に3月中に書き終えたいなどとぬかしてるのは削除したい気持ちですが、自戒のため残しておきつつ、後半5ページの感想です。

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 ■ 『珈琲日和6』の感想(後半) ■

 

● 6首連作「難波去りサバンナ(なんばさりさばんな」絹更ミハルさん
回文と川柳と短歌の連作(書かれた方のツイート見ました)。回文というものを初めて知ったのでへぇーってなりました。エッセイの真面目な雰囲気から一転、ケニアをテーマにした面白い言葉遊びが楽しかったです。

奇跡!飲むときめきと無の軌跡
(きせきのむときめきとむのきせき)

4首目回文。「飲むときめき」という言葉が素敵です。

青空に虹を描けるペンを持つケニアの子ども日本の子ども

6首目短歌。エッセイに書かれていたケニアの子どもたちの現状を思い出すけれど、子どもはみんな自由で、未来があるのだと、それは国や大人の事情で阻まれることはないのだと、明るい未来を示されているようで良かったです。

旅先でいろんな種類の珈琲が味わえるように、この連作もいろんな味わいが楽しめました。ジャンルに縛られない連作というのも面白いです。

 

● 6首連作「コーヒー+メイク+er」なぎさらささん

最初気づかなかったのですが、タイトルが凄いおしゃれで、それに気付いてから読みなおすと、とてもあたたかい気持ちになりました。

なみなみとタンクに注がれた水はもうすぐ生まれ変わると知って

1首目。水が珈琲になることを「生まれ変わる」と表現されていることが素敵だなぁと思いました。最後まで読んで、もう一度最初から読んだとき、なぜか水が珈琲になることを喜んでいるように感じられて不思議です。

香ばしい匂いが満ちたリビングで低血圧のわたしを迎える

4首目。コーヒーメーカーが迎えてくれたのかなぁと思いました。命がないものを命があるように感じられるほど共にあることは本当に尊い

朝、コーヒーを淹れていく工程と、それを飲むシーンがとても丁寧に、情感豊かに詠まれていて素敵でした。生活の一部に溶け込んだ珈琲の美味しさが染み渡ってくるような連作で、何度も読み返したくなります。

 

● 6首連作「航海誌改め建国誌」堂那灼風さん

珈琲でSFという発想が面白い作品。地球が何らかの理由で住めなくなり、住める星を探していた人々が、ようやくたどりついた星での出来事、だと思います。しかも、単純にSFとしたわけではなく、そこに平和をのぞむような描写があることが、現在ともつながっている気がしました。

建国の苦労が続く日々にありこの一杯が平和の証

我々は人種の過去を忘れ去りコーヒーの木を世話して暮らす

5、6首目。コーヒーが平和の象徴のように扱われていることがとてもうつくしいと感じました。現在にもこのような平和の象徴となるようなものがあればよいのにと願わずにはいられません。

それから、本当の(w)珈琲の歴史が気になり調べてみましたw

珈琲だけでなく、いろんな意味で世界観が広がる連作で面白かったです。

 
● エッセイ「フナバシ買い出し紀行」沼谷香澄さん
柔らかい文体で、珈琲を飲む習慣と、行き着けの珈琲店とそのマスターについて書かれたエッセイ。行き着けのお店に憧れを、珈琲に詳しいマスターとお話しできる関係なのに羨ましさを感じました。


● 6首連作「カフェにて」衣未(みみ)さん

カフェでのプロポーズの場面を詠った連作、じゃないかなと思いました。

カフェオレにきみの言葉を混ぜたままイエスかノーか決めかねている

3首目。2首目で「絶対に幸せにする」とあるので、これはプロポーズされて、それの回答を決めかねているのだと思いますが、カフェオレのコーヒーとミルクが、答えのイエスとノーと連動していて、その情景が浮かぶようでした。「きみの言葉を混ぜたまま」という表現が素敵です。

幸せにされるんじゃないしたいのに自信が無くて揺らした琥珀

4首目。上の句の強い心情がダイレクトに響いてきて、でも下の句でそれが萎むように弱くなる、そのバランスが好きです。

日々、いろんな出来事が起こっているカフェという場所が、よりドラマチックに感じられる作品でした。

 

● エッセイ「コーヒーのための文明」堂那灼風さん

ご自分のコーヒーを飲む習慣から人類の歴史にまで飛ぶ、パンチがきいたエッセイで、楽しく読みました。短歌の連作もそうでしたが、力強い作風がいいなぁと思いました。


● 6首連作「海峡の街より」倉橋千帆さん

海峡の街での出来事を詠った連作。

海峡の街でジャズとコーヒーを あくびの似合う路地へと向かう

1首目。海峡の街の奥深くへ誘われているようです。こういう歌が1首目にあると歌の世界に入り込みやすくていいですね。

この豆も船で運ばれて来たのだと船で旅立つあなたを想う

5首目。 コーヒーを飲みながら思うこと。遠い異国へ意識を飛ばすような雰囲気がとても素敵です。

海が近い街、外国との船が行き交う街特有の異国情調が感じられて、海峡の街へトリップしたような気分になりました。珈琲は世界各地を渡っているのだなぁと、そんな不思議を思いました。


● 6首連作「都々逸・珈琲節」宮嶋いつくさん

都々逸の連作。都々逸はあまり読んだことがないので、七七七五のリズムが新鮮でした。

香りが立てばブレイクされる忙しい時と脳の内

3首目。忙しく動いているとき(仕事中かな?と思いました)に珈琲の香りがすると、自然と休憩してしまうほど珈琲が習慣になっていて、きっとそれは良いことだけど、一緒に、考えていたことも霧散してしまって困る、というような矛盾の歌なのかなぁと思いました。

地獄のように熱い一杯一口すすりよみがえる

4首目。「地獄のように」という例えがいいし、私もすごく熱いのを熱い熱いといって飲むのが好きなので、うんうん、となりました。最後の「よみがえる」という表現が素敵です。

珈琲によってもたらせる日常の一瞬一瞬を捉えた連作は、とてもリアリティがあって、いつでも身近にあってすぐ飲める珈琲のよう。親しみを感じました。

 

● エッセイ「きみと話したいことがある」衣未(みみ)さん

散文もしくは詩のようなエッセイ。コーヒーがとても大切なものであることが伝わってきました。


● 6首連作「あなたの笑顔に会いたくて」@kaizen_nagoyaさん

珈琲日和4との出会いから、主催の知己凛さんが作られた動画「あなたの笑顔に会いたくて」への想いを詠った連作。動画は下記。無条件で泣かせにかかる歌でした!

【IA GUMI 猫村いろは】あなたの笑顔に会いたくて【オリジナル】 by Chikorin 音楽/動画 - ニコニコ動画

湯を沸かし珈琲を入れ解析す「乗り越えられない壁」はないはず

6首目。珈琲をいれているときって、思考するのに最適な時間だと思います。ちなみに、5、6首目の答え合わせ的な内容が一言コメントに入っていて、思わず笑ってしまいましたw

普通の珈琲とはちょっと違うけれど、@kaizen_nagoyaさんの思いがあったかい連作でした。


● 6首連作「コーヒーと御菓子」石川順一さん

タイトル通り、コーヒーと御菓子をテーマにした連作でしょうか。

スティックのハーフカロリーカフェオレを焼き芋食べてから飲んで居る

2首目。焼き芋を食べたのに今さらカフェオレぐらいカロリーが半分でも変わらないよ、的な皮肉っぽい歌なのでしょうが、それよりも、まず、なぜ焼き芋にカフェオレなのか、というインパクトに持っていかれましたw

一杯で留める珈琲冬の日の飲み放題を満喫できず

4首目。珈琲の飲み放題に心惹かれないのは、同じ珈琲だからかな。ケーキ食べ放題だって同じケーキだけ食べるんだったら飽きるものね(それでも食べたいという人もいるかもしれませんが)、珈琲もいろんな珈琲が飲み放題ならいいのにね、と思いつつ。あえて「一杯で留める珈琲」に、珈琲は、飲み放題で飲むものではないといっているような気がしました。

ユーモアが効いた自然体で詠まれているのが素敵で、気負わずにさらりとコーヒーを飲みたい気持ちになりました。 


● エッセイ「珈琲のある暮らし」月下桜さん

エッセイなのですが、まるで小説のような物語でした。連作と同様セブンイレブンのカフェでの出来事なのですが、やさしくやわらかい視点で語られるカフェでの出来事は、読んでいてあったかい気持ちになります。


● 6首連作「レスがつくもの」佐藤ゆうこさん

レスは、less=……のない、という意味でしょうか。

ミスドなら「おかわり自由」僕たちは終わりを決めることができない

1首目。自由なのに不自由になる矛盾に暗い気持ちになるけれど、もう一度読み直したとき、「ミスドなら」という表現に、終わりにしたくないのだろうか、と思いました。いつでも終える自由を持ちながら、終わりにしたくない時間があるのかもしれない、と。「僕たちは」から、学校が終わったあと友人たちとおかわり自由のコーヒーだけでいつまでもおしゃべりを続けているような、時計の針を気にしながらも、誰からも帰ろうという言葉が出ないまま過ぎていく、そんなシーンが思い浮かびました。

目的地みつけられない冬の日にコーヒーミルの音が聞きたい

4首目。希望を感じさせる終わり方が好きです。「聞」きたいが「聴」きたいでないのは、自然に聞こえてくるのを待っている気がして、それが余韻のように、歌の世界に広がりを持たせている気がしました。 

全体的にほの暗い雰囲気で、そのなかにほのかな光が灯るような表現が好きです。あたたかな珈琲を、一人でゆっくり味わっているような気分になりました。

 

● 6首連作「珈琲のある暮らし」知己凛さん

エッセイとも繋がる作品。久しぶりに逢えた恋人とのひとときを歌った作品でしょうか。二人ともに珈琲が好きなのでしょうね。どの作品も好きなのですが、特に好きな1首を引用させていただきました。

日曜にお散歩するのは久しぶり「あそこの豆を試してみようよ」

季節はわかりませんが、きっと晴れていて、あたたかな、お散歩日和なのでしょうね。久しぶりなのはきっと2人が逢うこともで、そんなときにでるセリフが珈琲のことなのが、2人とも珈琲がすごく好きなんだっていうのが伝わってきてよいなぁと思いました。恋人って基本「好き」で繋がると思うのですが、この2人は珈琲によっても繋がっているのだなぁって。

自宅で自分好みのあま〜い珈琲を淹れて、大好きなひととあれこれ話しながら飲みたい気持ちになりました。

 

  

ということで、後半5ページでした。

全部で19の6首連作と7つのエッセイという、読み応えたっぷりの一冊。同じ珈琲がテーマでも、それぞれのアプローチの仕方が違って(19もあるのに!)、それぞれが、それぞれの中に持っている珈琲の風景があることに単純に凄い!と思いました。詠まれる方々も凄いのでしょうが、それだけ珈琲というものが私たちの暮らしになくてはならない身近な飲み物の一つでもあるのだろうと。

本当に、とても素敵な一冊でした。このような冊子に参加できて、主催の知己凛さまには心から御礼申し上げます。ありがとうございました。


ちなみに現在『珈琲日和7』の原稿を募集されています。興味のある方は参加してみてはいかがでしょうか? 初心者でもだいじょぶだそうです。私も連作を作ったのは今回が初めてでした!