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超短編「ちるちるみちる」

 

 降るたびにあたたかくなる雨のなか、そのひとは花びらを拾っていた。

 つい一週間ほど前までうつくしく咲いていた、桜の花びらが散らばっている。風に吹かれて雨に打たれてひとの足に踏みにじられて、今ではその影も形もなくなって、ただ汚らしいピンクと茶と黒が水たまりに飲み込まれぐるぐるしている。そのなかから、白い指が何かを拾い上げた。

 花びら、それは花びらだ。

 拾ったのとは逆の手に、丁寧に載せる。

 よく見ると、他にも一枚、二枚、のっていて、花のかたちに置かれていた。花びらが花びらになる前の、正しかった花のかたち。

 四枚目と五枚目が拾われて、そのひとは満足したように笑った。笑って、花を捨てた。どろどろの渦の中に、やっと戻れた花のかたちが、また花びらになって、あるいは花びらですらなくなって、散らばった。

 

 

「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選に応募した超短編です。自由題部門で優秀賞をいただきました。丁寧な選評、ありがとうございました。選評は以下よりどうぞ。

 

紙街03用に読んで落選(?)した自作短歌の解凍小説でした。

 

ぬるみゆく雨に打たれて散らばりし花びらたちを桜に戻す