7's Library

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500文字小説メイキング?

超短篇・500文字の心臓 第160回タイトル競作「タルタルソース」のメイキングみたいなのを作ってみようと思い、全部テキストデータを取っておいたことを、161回の作品を作ろうとデータを開いたところで思い出しました。

最初に書いたのと全然違う作品が出来上がっていて自分でもこれが最初だったん…だ……?みたいな気持ちになっています。

全部で六校(=最終)までありますが、三〜六は推敲に近い感じです。

一番上が初校みたいなやつで、一番下に最終的にアップされた作品を掲載しています。

では(本当に)お暇な方のみどうぞ。ちなみに意図したわけではありませんが、ネタバレが含まれるかたちにもなっています。

 

※ざっくりとした作り方※

メイキングとか書いちゃったので一応作り方。短い作品(2000文字ぐらいまで?)だと何も考えずにその場で思いついたことを書きていきます。書いていると勝手に別のものが浮かんでくるのでとりあえず書き散らかします。書き散らかしているうちにこれいいな、みたいなものが出てくればそれを練ります。今回は三校目でこの方向性でいってみようかというのが浮かんでいます。なので四〜六はそれを推敲した感じです。

ちなみにこれを書いたときは超短篇というよりも500文字小説として書きました(500文字以内の小説)。ただ500文字小説は文字数の数え方が結構曖昧なので、かなり余裕をもたせての500文字にしています。最終は改行ほか入れて484文字です。

 

 

■ タルタルソース初校 ■ 

茹で上がったわよ、と卵さんが言って、冷水の中に飛び込んでいった。みじん切りにされたタマネギさんに、その滴が飛ぶ。タマネギさんは何も言わない。醤油さん、お酢さん、砂糖さんが鍋に入れられ、人参さんやタマネギさん(みじん切りではない)、生姜さんも少しずつ、塊のまま入れられた。沸騰したら止める。南蛮酢の出来上がりだ。まだ湯気が上がっていてとてもあたたかそうである。温泉というのはこれに近いかもしれない、などと想像する。その中へ、わたしは漬けられた。砂糖の甘味とお酢のさっぱりした感覚が揚げ焼きの衣に染み渡ってくる。肉の中にも少しだけ染みたかもしれない。痛気持ちいいみたいな感覚に襲われて、思わずそのまま眠り込みそうになる。慌てて意識を叱咤させると、みじん切りにされたゆで卵さんとたまねぎさんがボールに入り、マヨネーズさん、ケチャップさん、塩コショウさんなどが入り、かき混ぜる。あれはタルタルソースという、わたしをさらに美味しくしてくる魔法のソースだ。いよいよ私は南蛮酢の中から引き上げられ、真っ白なうつくしい皿に盛り付けられた。先にレタスやキュウリ、トマトなどの新鮮な野菜たちもいる。そうしてほどよく美味しそうなわたしの体に白をベースにしたソースがたらりと掛けられた。これが決め手だ。さぁ、どうぞお召し上がりください。

 

■ タルタルソースニ校 ■ 

小鍋に水を注ぎ、火にかける。沸騰したら、予め冷蔵庫から取り出しておいた卵をひとつ、お玉でそっと入れる。5分茹でたら火を消し、蓋をして1分ほど蒸らす。お玉で卵を掬い、冷水をたっぷりいれたボールに入れる。上から水を注ぐ。しばらくしたら手を突っ込む。最初はそっと。熱くないことが確認できたら水から引き上げ、その辺でコツコツして殻にひびを入れる。うまくいったので殻はすべてつるりと向けた。少しだけ残った殻があったので水で洗い流す。卵が細かくなるように切り刻む。適当だ。形状や大きさがバラバラでも気にしない。とにかく細かくなればいい。卵をボールに入れて、今度はたまねぎを切る。4分の1ぐらい。みじん切り。うまく切れない。とにかく細かくなればいいと、できるだけ丁寧に切り刻む。卵の上に入れる。マヨネーズ、ケチャップ、塩コショウを入れて、スプーンでかき混ぜる。黄色味がかった白と、赤が交ざり合って、白が勝った色になる。赤は呑み込まれた。指を突っ込んで味見をする。甘いマヨネーズ。タマネギのシャキシャキした感触と、白身の弾力、黄身のコクがきれいに混ざり合って美味しい。うん。

 

■ タルタルソース三校 ■ 

むかしむかし、とおいとおい宇宙の向こうから、タルタル人と名乗る生き物たちがやってきた。彼らは人間と同じような肉体を持っていたが。皮膚の色は黄色みがかった白だった。そして、その肉体はとてもやわらかかった。骨がないのか、肉体のどの部分もたるんたるんなのだ。頭を小突けば首を軸にしてたるんたるん、腕を引っ張れば肩から下がたるんたるん、足を蹴っても膝から下がたるんたるん。タルタル星人ではなく、たるんたるん星人ではないかと、人々は思った。だが、彼らはタルタル星人であると言い張り(名称には誇りを持っていたようである)、その証拠として、彼らは一番小さなタルタル人の腕を包丁で切った。切り口からは肌の色と同じ、黄色っぽい白い液体が出てきた。ところどころに黄色や白の固形っぽい何かも見られる。別のタルタル人がそれを瓶に入れて、人間に渡した。彼ら曰く(言語が異なったため、お互いなんとなくのニュアンスでそれぞれの言い分を理解していた)、自分たちの体はとても美味しいから、友好の証として、ぜひ受け取ってほしいということだった。人々は気味悪がったが、一人の子どもが、液体を舐めた。子どもは叫んだ。「おいしい!」と。かくして、タルタル人は人間たちに捕らえられ、その最後の一滴まで人間たちに食べられてしまった。だが、実はそれはタルタル人たちの戦略で、彼らはそうやって人間の体に寄生して生きることが目的だったともいわれている。本当のことは誰も知らない。

 

■ タルタルソース四校 ■ 

むかしむかし、とおい空の向こうから、たるたる人と名乗る生き物たちがやってきた。彼らは人と同じような姿かたちをしていたが、ひとにはない、やわらかい肉体を持っていた。肉体のどの部分もどこまでも伸び、どこまでも曲がった。

たるたる人たちは、友好の証として、代表者と思しきたるたる人は自らの腕を切った。腕からは、ほんのり黄色みがかった白い液体がこぼれてきた。別のたるたる人が、それを透明な瓶に入れて、人間に渡した。瓶の中の液体の中には、黄色や白の固形物が含まれている。彼ら曰く(言語が異なったため、お互いなんとなくのニュアンスでそれぞれの言い分を理解していた)、自分たちの体はとても美味しいから、友好の証として、ぜひ受け取ってほしいということだった。人々は気味悪がったが、一人の子どもが瓶に付着していた液体をそっと舐めた。子どもは叫んだ。「おいしい!」と。かくして、たるたる人たちは人間に捕らえられ、その最後の一滴まで人間たちに食べられてしまった。

だが、実はそれはたるたる人たちの戦略で、彼らはそうやって人間の体に寄生して生きることが目的だったともいわれている。本当のことは誰も知らない。

 

■ タルタルソース五校 ■ 

むかしむかし、とおい空の向こうから、タルタル人と名乗る生き物たちがやってきた。彼らは人間と同じような姿かたちをしていたが、人間にはない、やわらかなからだを持っていた。からだのどの部分もどこまでも伸び、どこまでも曲がった。

タルタル人たちは、友好の証と言い、自らのからだを切り裂いた。人間たちは驚いたが、タルタル人は痛がる様子もなく、流れ落ちてくるほんのり黄色みがかった白い液体を、見たことのない透明な器に入れた。タルタル人は言った。自分たちの体はとてもおいしいからぜひ食べてみてほしい、と。人間たちは気味悪がったが、ひとりの食いしん坊の子どもがその液体を舐めた。子どもは叫んだ。「おいしい!」と。人間たちは顔を見合わせ、それからおそるおそるその液体を舐め始めた。液体は、彼らが今まで食べたどんなものとも似ても似つかない味だった。人間たちはあっという間にその液体を舐め尽くした。そして、その様子を黙って見ていたタルタル人たちに襲いかかった。

 

■ タルタルソース最終 ■ 

むかしむかし、空の向こうからタルタル人がやってきた。彼らは人間と同じような姿かたちをしていたが、人間にはない、やわらかなからだを持っていた。からだのどの部分もどこまでも伸び、どこまでも曲がった。

タルタル人たちは、友好の証として、自らのからだを切り裂いた。人間たちは驚いたが、タルタル人は痛がる様子もなく、流れ落ちてくるほんのり黄色みがかった白い液体を、見たことのない透明な器に入れた。タルタル人は言った。「わたしたちのからだはとてもおいしい。ぜひ食べてみてください」と。人間たちは気味悪がったが、ひとりのおなかをすかせた子どもがその液体を舐めた。子どもは叫んだ。「おいしい!」と。人間たちは顔を見合わせ、それからおそるおそるその液体を舐め始めた。液体は、今まで食べたどんなものとも似ても似つかない味わいで、彼らはあっという間にその液体を舐め尽くした。そして、その様子を黙って見ていたタルタル人たちに襲いかかった。

 

かくして、タルタル人たちは消えてしまった。タルタル人を食べた人間たちも消えてしまった。タルタル人の味を再現して作ったというソースだけが残されている。