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Twitter300字ss:肉体が崩れ落ちても魂がそこにないとはわかっていても

下記の企画に遅刻参加します。

ジャンル:オリジナル、FT

タイトル:肉体が崩れ落ちても魂がそこにないとはわかっていても

 

 

 こんなところにいたのかと、友を包む氷に触れる。冷たく分厚い氷の中に、生きていたときには見たことのない まなこがある。喉元までこみ上げてきた、かたちにならない感情を噛み砕いた。強くはないが止む気配のない神からの贈り物とやらが、ようやっと掘り起こした友の一部を、再度白く覆っていく。

 嗚呼。

 青空を自由に翔けた二つの翼も、幾億もの鱗に覆われていた頑強でしなやかな肉体も、見るに堪えないほどに崩れ落ちていた。親しかった誰にも何も告げず、五年ほど前に忽然と行方をくらました、その年月分の。

 最後の竜だった。
 けれど友だった。
 こんな風に失いたくなどなかった。
 こんな最期をみるために、


 風が強くなり、吹雪となり、隠されていった。

 

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■関連作

五年前の話。