7's Library

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Twitter300字SS:氷の味

下記の企画に参加します。

ジャンル:オリジナル、現代

 

 

■ 氷の味   ■

 

氷がおいしいことを知ったのは、祖父母との別居が決まった日の夜だった。
なぜ氷を食べたのかは覚えていない。ただ、廊下からの仄かな明かりのみを頼りに手にした冷たい塊を、口の中に放り込んでがりっと噛んだときの衝撃と血の味は、それから数年間病みつきになった。
いけないことをしているとは思わなかったけれど、見つかったら叱られるのではないか、恥ずべきことではないかという恐れが常にあって、人前では絶対にその行為を行わなかった。

 

就職して一人暮らしを始め、祖父母も亡くなった頃、気付けば氷を食べたいという欲求は消えていた。
たまに噛み砕くことはあったけれど、あの頃、これの何がおいしかったのだろうと首を傾げるばかりだ。

 

 

■ 氷を食べた ■(最初に書いたのはこちら。自分の記録用に)

 

氷食べるなんて変だよ、行儀悪いよ、そんなようなことをいわれたのは値段が安いことで有名なイタリア料理のファミレスだった。

飲み放題のオレンジジュースの大きな氷をひとつ口に放り込んで、がりっとやった。口内で小さな氷の粒が弾け飛んで消える。まだ口の中は大きな氷でいっぱいだったので、わたしは返事ができず、ただ口の中で氷を転がしていた。少しずつとけていく。もったいない。噛みたい。噛み砕きたい。がりっ。相手は嫌そうな顔をした。氷は半分ぐらいになった。少し口の中も切ったらしい。血の味。適当にまた噛み砕く。


相手が席を立った。あんた変、そんなようなことを言って店を出ていった。


会計をどうしたのかは覚えていない。