7's Library

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金魚の箱庭

 

 ある日、水槽から声が聞こえた。
 おかあさん、おかあさん、ゆうこ、きなこになっちゃった。
 ゆうこというのは子どもの、長女の名で、きなこというのは水槽の中にいる小さい方の金魚の名だった。
 そっかぁ、金魚は楽しい?
 たのしい! すごくたくさんおよげる!! ほらみて! おかあさん、ゆうここんなにおよげるよ!
 みかん色の、細く小さな金魚が、水槽の中を右から左、左から右へとすごい速さで泳いでいく。よく水槽の壁にぶつからないなぁなんて感心しながら眺めていたら、声は聞こえなくなった。
 ゆうこ、さびしくない? 水槽の中は、狭くない?
 金魚は長くて10年生きると、ゆうこが教えてくれた。そんなに長い時間を、こんな小さな水槽の中でずっと過ごすなんて、つまらなくないだろうか。もっと広い世界へ出ていきたいと、願ったりしないだろうか。

 春、水槽の中には金魚は2匹いた。
 最初は6匹いた。夏祭りの金魚掬いで掬ってきた子たちだ。小学生の子ども二人が、一人1回500円で3匹×二人分。1匹約167円ぐらい。みかん色の、小さくてかわいい魚たち、楽しかった夏休みの思い出、は、死んでしまったり買い足したり死んでしまったりで、新学期を目前に2匹となっていた。
 水槽のサイズは6匹の金魚を想定して購入したものだったから、2匹には広く感じるだろうか。
 小学二年生のゆうこが図書室で金魚の本を借りてきて、きんぎょはふなからつくられた、かんしょうようのさかななのだと教えてくれた。へー、としか答えられない。人間のエゴでつくられて、こんな小さな水槽の中がこの子たちにとって世界のすべてで、死ぬまでずーっとこの小さな世界を泳ぎ続けるのかと思うと恐ろしい気持ちになった。
 でも、この感覚はきっと自分が人間だから感じるもので、金魚にとっては余計なお世話なのかもしれない。自分とはまったく異なる生き物の幸不幸を勝手に決めるなんて、実に人間らしいおこがましさだ。
 そんなことを考えていたら、金魚からゆうこの声が聞こえてきて。水の中にいるのに声が聞こえるなんておかしくて。わたしが水の中をたゆたっていることに気づいた。
 金魚。あの、みかん色の小さな。
 決められた場所を泳ぐ。水がたっぷり入った四角い箱。水の中は、泳ぐのは、気持ち良かった。気持ちいい。およいで、およいで、たべて。およいで、ねむって、およいで、およいで。

 およぐ。