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ジャンル:オリジナル、現代

暗渠

 水のない街に生まれた。
 内陸部の、いわゆる新興住宅地。海は遠く川もなく、唯一流れるのはドブ川だけ。汚い水という認識はなんとなくあったけれど、それでも自分の足でいける範囲にあるそのドブ川が特別だった。住宅地や田んぼや空き地をぐねぐねと通って、どこか知らない場所へ伸びていく。この街は、ただ通過する土地のひとつに過ぎないのだ。

 今、海も川も近く、春になると田んぼに水が入る土地で暮らしている。風が強い日は、波が堤防に当たる衝撃が響いてくる。
 高校生の頃に読んだ、川のある街の小説では、水は連れていくもの、恐ろしいものとして書かれていた。
 でも、あの街で私が望んだなにかは、私をここへ、届けてくれたように思うのだ。

 

※小説は恩田陸の「月の裏側」

 

(以下画像は本文と同じです)

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